イギリスの地方が舞台の小説(とノンフィクション)

比較的最近に読んだ本の中から、イギリスの地方を舞台にした小説を紹介します。図書館の子供向け本棚がなかなかのねらい目です。(ピンク背景は子供向けの本)

2017年1月18日更新

イングランド南部
世界探偵小説全集18
ジョン.ブラウンの死体

国書刊行会

E・C・R・ロラック

桐藤ゆき子

1938年発表の推理小説。地方の景観が詳しく盛り込まれているのが印象的。スコットランド・ヤードのマクドナルド警部もの。 コーンウォール
絞首台の村

ハヤカワ・ミステリ

ピーター・ヒル

間山靖子訳

とある海辺の寒村で起きた猟奇的な殺人事件を調査に来たスコットランド・ヤードの二人組みの刑事が主役。以前読んだ時に非常に後味が悪い話との印象があったが、再読するとやはり後味は悪いものの、地方の景観が目に浮かぶようで印象的。しかし、訳、「ステーキとソラマメのパイ」はあんまりだ。 コーンウォール
呪われた航海

理論社

イアン・ローレンス

三辺律子

難破からひとり助かった少年がたどり着いたのは、わざと船を難破させ、積荷を奪う恐ろしい難破屋たちの村だった。子供用の本とも思えぬ残酷な話が次々起こる、かなり怖い展開だが、父の行為にすら疑問を感じるひとりの少年の成長物語である。2世紀前の設定であるが、地元の人に怒られないだろうか、この話。(実在のペンデニス村は少し違っているようだが。)2005年1月28日。 コーンウォール

埋もれた青春
デュモーリア作品集3

三笠書房

ダフネ・デュモーリア

大久保康雄

ただひとりの肉親である叔母を頼って荒野の只中にある宿屋ジャマイカ・インを訪れた娘メリイが遭遇する思いも寄らぬ謎と恐怖。ボドミン・ムーアの荒涼とした風景が目に浮かぶ。最後の30ページの逆転に騙されたのは私だけだろうか。2005年10月4日。 コーンウォール
ヴァイキングの誓い

ほるぷ出版社

ローズマリー・
サトクリフ

ヴァイキングにさらわれて奴隷になった孤児が、その主人と義兄弟の契りを交わし広い世界に飛び出していく。故郷を離れて二度と帰らぬ主人公が、若くして不具となり技術者として身を立てる物語は「はるかスコットランドの丘を越えて」とよく似ている、と思う。発端のみ、イギリスが舞台。2007年9月15日 コーンウォール
忘れられた花園(上、下)
ケイト・モートン

青木純子訳
面白いが楽しくない。過去と現在、英国とオーストラリアが交差する複雑な構成、そして謎の行方はコーンウォールの忘れられた花園。ルシタニア号や大惨事となった列車事故などが盛り込まれ、スケール大きな話、と思いきや何だか卑小な結末になってしまった。確かにかなり面白いが読んで楽しい話ではない。あさましく下劣な下層民、冷酷な成り上がり者、持てる者に満足せぬ上流人。登場人物が皆嫌いだ。ただ、誰も彼もが憎々しくてたくましい。そしてお友達にはなりたくない。この作者の作品は二度目だが、私の趣味ではないことはわかった。ネタは好みなのだが、仕上がった作品が好みでない。2011年11月。 コーンウォール、
ロンドン、
オーストラリア
断崖の骨
早川書房
アーロン・エルキンズ
青木久惠訳
アメリカの人気シリーズ「スケルトン探偵」と呼ばれる学者が新婚旅行でイングランドを訪ねる趣向。主人公の性格はまだしも、毛深い大男という設定はいや。ハーディの故郷ドーチェスターなどが登場する。2012年2月。 ドーセット
煙突掃除の少年

ハヤカワ・ミステリ

バーバラ・ヴァイン

富永和子訳

ルース・レンデルの別名。有名な小説家であった父の急死後、娘は父は長年別人の名を使ってきた事実を知る。娘、そして長年夫に冷遇されてきた妻のふたりが、それぞれの探究を始める。面白い。しかし、全くウンザリする男である。サフォーク、ロンドンなども出るが、北デヴォンの「ランディ島が見える家」が重要な舞台となる。2002年10月27日。 デヴォン
雪だるまの殺人

ハヤカワ・ミステリ

ニコラス・ブレイク

(C.D.ルイス)

1940年早春、大雪に閉ざされたマナーハウスで起きた殺人事件。地方の名家の複雑な人間模様。 エセックス
ブラックランズ

小学館文庫
ベリンダ バウアー
杉本葉子訳
12歳の少年スティーヴンは、かつて連続殺人犯に殺されたと見られる叔父の遺体をひとり探している。その叔父の死によって崩壊した家庭を再生させることを願って。遺体を探すため、彼は獄中の殺人犯と文通を始める。生まれた時からつらい状況に置かれた少年のけなげな活躍が報われるのが救いだ。しかし、彼はその後もまだ試練に見舞われるのではあるが。(読んだのは2015年8月だが、記入したのは2017年1月13日) デヴォン、エクスムーア
ダークサイド

小学館文庫
ベリンダ バウアー
杉本葉子訳
再びエクスムーアの寒村で事件が起こる。不治の難病に苦しむ妻を抱えるジョーナス巡査がスティーヴン少年と共に謎に挑むが、事件は非劇的な結末へと。(読んだのは2015年8月だが、記入したのは2017年1月13日) デヴォン、エクスムーア
ハンティング

小学館文庫
ベリンダ バウアー
杉本葉子訳
17歳になったスティーヴン少年が三度に渡り事件に巻き込まれる。前作で非劇に見舞われたジョーナス巡査と共に未解決の事件の謎に挑む三部作の完結編。しかし、この寒村、これでイギリス一悪名高くなってしまったのではなかろうか。あ、まだミッドサマー地区があったか。(読んだのは2015年8月だが、記入したのは2017年1月13日) デヴォン、エクスムーア
アナグマ物語

評論社

モーリー・バケット 農村で傷ついた動物たちを育てる一家が飼うことになった悪戯好きのアナグマの物語。風光明媚な田舎町に潜む現実社会の問題など。(ノンフィクション)  
アザラシは海の犬 R.H.ピアソン
中村凪子訳
旧家ベイントン・ハウスに住む著者は、突然アザラシを飼いたくなり、生まれたばかりのアザラシの子2頭を手に入れる。フリッパーとダイアナと名づけられた個性豊かなアザラシの子たちの愉快で悲しい話。(ノンフィクション) ウィルトシャー
かっこうの木

合資会社冨山房

ジョーン・エイケン

大橋善恵訳

公文書を持って帰国した少女ダイドーは、馬車の事故でペットワース近くの村に足止めを食う。新王リチャード4世の即位を妨げようとするハノーバー党員の陰謀、更に舘の相続問題にも巻き込まれ…。行動力溢れる庶民の少女ダイドーが魅力。「ウィロビーチェイスのおおかみ」の流れの一連の「英国パラレルワールドもの」。今回はファンタジー風。作者が住む中世の町ペットワースが主な舞台となっている。01年12月19日追加。 サセックス
ホワイト・ロピンと村の学校 ミス・リード

中村妙子訳

田舎町フェアエイカーの小学校に白いロビンが現れた。村中の人々の愛情を独占していたそのロビンが、情緒障害の転校生に殺されるという悲劇が起こる。フェアエイカーものの6作目。少し前のイギリスの田舎を舞台にしたこの話には、貧乏な一家、劣等生の問題児、精神病の女性など、現代のもの書きがあえて避ける人々が堂々と登場する。文章は読みやすいがやや淡白に過ぎるような気が。02年1月31日追加。  
幽霊の恋人たち

サマーズエンド

偕成社

アン・ローレンス

金原瑞人訳

夏の終わり、とある村にやってきた旅人が3人の少女に語って聞かせる物語の数々。よく知られている物語を、「自立する女性の物語」として話し聞かせる独特のアレンジが新鮮。個々の物語の出典は全国区だが、舞台は南部と思われる。2002年10月27日。  
苦い林檎酒

ハヤカワ・ミステリ

ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

殺人犯として死刑になった米兵の娘の訪問を受けた男が、少年の日に目撃した衝撃的な事件の真相を探る。20年間、封印されていた秘密は、いっそうおぞましいものだった。過ぎし日の田園地帯の懐かしい世界と、猟奇的な事件の対比が心に残る。2004年11月24日(15年ぶりに再読) サマセット、バース他
最後の刑事


ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

ハゲ、デブ、ガサツはオヤジの三悪(とはワタクシが決めました)兼ね備えたピーター・ダイヤモンド警視はバースの警察署の名物刑事。バースの地方色極めて豊かな物語。実は、前々から特別なコーナーを設けるつもりで現在まで実現していません。2007年9月15日追加 原則としてバース中心。
唯一の例外はロンドン→ニューヨーク→東京と舞台が移る「単独捜査」
バースへの帰還 ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

ロンドンのボロアパートで困窮生活を送るダイヤモンドの元に古巣のバース警察からお呼びがかかった。かつて彼が逮捕した殺人犯が脱獄し、有力者の娘を誘拐したのだ。懐かしいバースに戻ったDの活躍が見どころ。07年9月15日追加。 ロンドン、バース
猟犬クラブ ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

今回は運河に浮かぶナロー・ボートが大きな役割を果たす。運河にかかる歩道の上に死体がぶら下がったり、と見せ場が満載。07年9月15日追加。 バース
地下墓地 ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

ローマ浴場跡の地下室で発見された人骨の一部はバースの町を「フランケンシュタイン」騒動に巻き込んだ。デブ、ハゲ、ガサツとオヤジの三悪が備わったピーター・ダイヤモンド警視の人間味が魅力だ。 連作の6作目。古都バースの地図を手元に置きながら、じっくりと読みたい。本に地図が出ていないのは不親切。02年1月31日追加。 バース
暗い迷宮 ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

記憶を失った女と彼女を助けるたくましい浮浪女の個性的なコンビと老農夫の自殺はどう関係するのか。古代マーシア王国の財宝、ブラッドフォード・オン・エイヴォンのお魚のシンボルなど、ローカルネタも満載。07年9月15日追加。 バース
ブラッドフォード・オン・エイヴォン
最期の声 ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

平和な生活に飽き飽きしていたダイヤモンド警視、久々の殺人事件の知らせにわくわくしながら現場に駆けつけたのだが、そこで見たのは最愛の妻ステファニーの死体だった…。幾ら何でもこんな掟破りの話があって良いのか、と原作者をどつき倒したくなる悲しい話ですが、それでも面白かった。悔しい。05年1月11日追加。(読んだのは1年近く前です。) バース 
漂う殺人鬼 ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

この話の嫌いな点。は被害者の監察医女性の日記。性的妄想の塊でげんなりした。イギリス人の感覚では有能な男女ってこんなにセックスに貪欲でなくてはいけないのか? ステファニーに死なれたダイヤモンド刑事に新しいロマンスが期待できそうな雰囲気は良いけれど。
楽しかったのはD刑事の猫のラッフルズと副部長のサルタンの件ね。07年9月15日追加。
ワイトヴュー・サンズ
バース
処刑人の秘めごと ピーター・ラヴゼイ

山本やよい訳

おなじみパースを舞台に連続絞首殺人が起こる。古典的なネタが多かったシリーズも、時代とともにデジタル化し、警視はついに携帯電話を持つにいたる。シリーズ始まって以来ではないだろうか、D警視出ずっぱり、そして猫のラッフルズが顕在。それにしても、警視が随分丸くなったように思えるのは気のせい? あと、前作ヘン(めんどり)の次はパロマ(鳩)って洒落ですか08年9月25日追加。 バース
ブラッドフォード・オン・エイヴォン
アガサ・レーズンの困った料理
―英国ちいさな村の謎〈1〉

その他、「アガサ・レーズン」もの。
コージーブックス
M.C. ビートン
羽田 詩津子 訳
生き馬の目を抜く広告業界を早期退職して美しい田舎の村に移り住んだ強烈な個性の中年女性が巻き起こすというか巻き込まれる事件の数々。現在は裕福な生活をしているものの、労働者階級出で粗野で下品なキャラクターに嫌悪感を抱いたが、それでも読んでいるうちに次第にひいきになってくるのが怖い。この女主人公のエネルギーに脱帽。ただ、この作者が「マクベス巡査」シリーズの作者と知り、どうせならこちらの方を読みたいものだと業界のいやらしさを恨む。2017年1月13日記。 コッツウォルズ

グロスターシャーかな?
イングランド中部
フクロウ物語

福音館書店

モリー・バケット
松浦久子訳
岩本久則絵
「野生動物リハビリセンター」を運営する夫婦と子供たちとフクロウたちの楽しく、やりがいがあると共に何とも壮絶な日々。人になれていながら、野生の本能を失わないフクロウたちは、決して可愛いだけではなく、厳しい現実をも見せてくれる。「アナグマ物語」の著者でもある。フクロウ愛好家でもある岩本氏の挿絵が最高。01年12月3日追加。 リンカンシャー
幽霊の友だちをすくえ

ジュニア・ライブラリー
ヘレン クレスウェ.ル

岡本 浜江 訳
二度目か、ひょっとして三度目の読み直し。ナショナルトラストでも人気のプロパティ、ベルトンハウスを舞台にした幽霊話。隣接する教会内に現存する墓石の謎にまつわる謎、というかそれはあくまでも謎のひとつ。話としてはちょっと中途半端な感じ。謎の少女セアラや細かい事情もわからぬままだし、何よりも結末の子供たちの解放というのが良くわからず、ひょっとして幽霊になって永遠に月時間の中をさまようことだったら、そのほうが恐ろしいのでは?なんて思ってしまった。2017年1月13日記。 リンカンシャー
かかし
徳間書店
ロバート・ウェストール
金原瑞人訳
寄宿学校で暮らすサイモンの英雄は戦死した父。母が再婚した相手は、父とは正反対のタイプだった。妹も継父に懐く中で、家族への反発から居場所をなくすサイモン。彼の憎しみの心が、かつて惨劇があった水車小屋に潜む怨霊たちを呼び起こす。児童文学にしてはかなり生々しい話で、ハッピーエンディングを迎えられるのかとはらはらする作品。最初の学校の場面は北イングランドのようだが、重要な舞台は中部西のチェシャーになる。2012年7月12日追加。 チェシャー
ロザムンドの死の迷宮
アリアナ・フランクリン サレルノの女医アデリアが活躍するシリーズの2話。前の話でヘンリー2世治下のイングランドを訪れたアデリアが、王の愛妾ロザムンド毒殺事件に巻き込まれる。傑出した頭脳と技術で偏見に満ちた男社会の中で戦うアデリアの生きざまは、しかし現代人から見たらストレスだらけで爽快な話とは言えない。印象的なのは雪と氷に閉ざされた厳寒のオックスフォード。エレアノール王妃、ヘンリー2世夫妻のスケールの大きさは心に残る。2014年1月26日追加。 オックスフォード近郊ゴドストウ修道院、ウルヴァーコート
ウェールズ
ふくろう模様の皿

評論社

アラン・ガーナー 屋根裏から発見された謎の絵皿を巡る3人の子供たち。旧家の女相続人の主人公とその義兄、そしてコックの息子。古典的な神話物語に階級と人種の問題を加えた現代的な作品。  
イングランド北部
警視の休暇

ハヤカワ文庫

  スコットランド・ヤードのキンケイド警視ものの1冊。休暇で訪れたヨークシャーのホテルで殺人事件に巻き込まれる、というのは有り触れた設定だが、まるで「ご当地もの」の舞台背景が無類に楽しい。ただ、キンケイドの人物設定には特に魅力を感じないような気がするのだが。 ヨークシャー
わたしのねこカモフラージュ コーディリア・ジョーンズ

山内玲子訳

北部イングランドの寒村に母と移り住んだ少女と迷子のネコの物語。動物ものには珍しく、主人公を取り囲む環境は問題が山積み。でも、最後に幸せな結末が訪れるのが救われる。 ヨークシャー
完璧な絵画 レジナルド・ヒル

秋津知子訳

時に取り残されたかのような田舎の小村を襲う突然の惨劇。全ての発端は何十年、何百年以前に起こっていたのだ。かなり分厚い本だ。
破天荒な主人公ダルジール警視、内省的な主任警部パスコー、アウトロー的な部長刑事ウィ−ルドのシリーズ13作目。
ヨークシャー
ベウラの頂 レジナルド・ヒル

秋津知子訳

小さな村で、三人の少女が行方知れずになって15年後、再びひとりの少女が姿を消した。荒涼とした山岳地帯を背景にしたお馴染みトリオの物語。かなりぶ厚いが最後まで飽きさせない。02年1月31日追加。 ヨークシャー
地下道

ハヤカワ・ミステリ

  地方の旧家出身の代議士が、古地図から発見した地下道を探検中に、急な増水に遭い、友人を見捨てて逃げ出す。前半の正統的な筋運びと、あっと驚く?結末になんだこれ、と言いたくなる珍品。 カンブリア地方
死の鐘はもうならない J.P.ウォルシュ

岡本浜江訳

1665年、ダービシャーの小さな村イーアムをペストが襲い、村人の殆どが死に絶えた。ペスト、宗教改革と復興などの実在の出来事を背景に、家族や友人を失いながらも試練に立ち向かう少女の物語。子供の本にしては異常な程に重いテーマだ。 ダービシャー
時の旅人 アリソン・アトリー

松野正子訳

ロンドンのチェルシーから母方の先祖の地サッカーズにやってきた少女ペネロピーは時を超えてエリザベス時代に戻り、スコットランドのメアリー女王に忠誠を誓うアンソニー・バビントンと出会う。現在と過去を行き来するペネロピーの不思議な冒険は、しかし彼らに待ち受ける悲劇的な運命を止めることは出来ないのだった。ロマンティックでかつ悲しい話であるが、かくも惨い結末を迎える話を淡々と綴る感覚は日本とは違うな、とも思う。細かく描きこまれた当時の描写が印象的だ。2005年1月28日。 ダービシャー
ウィロビー・チェースのおおかみ

合資会社冨山房

ジョーン・エイケン

大橋善恵訳

1832年、ジェイムズ3世の治世、という架空の時代。イギリスでは絶滅した狼が、ドーヴァー海峡の海底トンネルを通じてイギリスに押しかけてきた。非道な後見人に館を乗っ取られた少女たちの戦いは、典型的なヴィクトリア時代風冒険小説。01年11月3日追加。 ヨークシャー
黒いランプ

ぬぷん児童図書出版

ピーター・カーター

犬飼和雄訳

ランカシャーの村で父と暮らしていた少年は機械に職を奪われ困窮した手織り工仲間と共にデモに参加、「ピータールーの虐殺」と呼ばれる悲劇へ巻き込まれる。産業革命の蔭で苦しむ庶民の苦闘を描いた深刻な物語。1715年、1745年のジャコバイトの反乱に参加したと称する老人が端役として登場するが、日本の子供にはわかりづらい内容だろう。01年11月30日追加。 ランカシャー、ヨークシャー
ツバメ号とアマゾン号

岩波世界児童文学集29

アーサー・ランサム神宮輝夫

岩田欣三訳

湖の無人島にキャンプを張ることを許された四人兄弟姉妹の「ツバメ」号での冒険の数々。彼ら以上に元気な海賊「アマゾン」号の姉妹たちと出会い、同盟して「フリント船長」に戦いを挑む。良い子の長男ジョンに比べ、破天荒なアマゾン船長ナンシーが強烈に魅力的だ。1930年に描かれた特権階級の子供たちの夏休みではあるが、この子達は無人島に漂着しても生還できるだろう。02年8月30日追加。 湖水地方
ゲールの赤き火影

ヴィレジブックス
ダイアン・ガバルドン

加藤洋子訳
アウトランダーもののスピンオフ、ロード・ジョン・グレイの3作目。最初16歳の小童として登場したロード・ジョンも一人前の軍人になっている。このシリーズではジェイミーの立場は仮釈放中の囚人で、労働者扱いされるのが一番いや。ジェイミーはストイックに耐えているので立派というべきなのであろうが、理不尽すぎると思う。公爵の次男で、美男子の同性愛者ロード・ジョン、個人的には好きだけれどともかく鬱陶しい。
ジョン・ハンター、ホレス・ウォルポールなど同時代の有名人がさりげなく出てくるのが面白い。
ロード・ダンセイニの爵位は男爵とあるが、そうだとしたら娘たちの名前にはレディはつかない筈だ。少し前に読んだけれど記入したのは2017年1月13日。
湖水地方、ロンドン、アイルランド
シェパートン大佐の時計

岩波世界児童文学集27

フィリップ・ターナー 前世紀の繁栄が過去のものとなった小さな町。大工の息子デイビド、農場主の息子アーサー、牧師の息子ピーターの3少年が、かつて謎の死を遂げたシェパートン大佐が遺した時計にまつわる秘密を探る。実に30年ぶりに読み返したのだが、当時は漠然と読んでいたイギリスの地方の雰囲気が今更のように印象的な物語。04年1月26日追加。 ヨークシャー
クリスマスの幽霊
徳間書店
ロバート・ウェストール
坂崎麻子・光野多惠子訳
工場で働く父に弁当を届けに行った少年が見た老人の幽霊。その姿を見ると、工場で死者が出ると言う。併せて載せられた作者の幼時の回想と通じる、生き生きとした労働者階級の家族の生活は、今としては永遠に過去のものとなった。不思議に懐かしい作品。2012年7月12日追加。 ノーサンバーランド
(ニューカッスル)
禁じられた約束
徳間書店
ロバート・ウェストール
野沢佳織訳
工場で働く父を持つ「ぼく」の愛した少女、ヴァレリーが病死した。抜け殻のようになったぼくは彼女の面影を求めて共に過ごした場所を彷徨う。今は大都市となったニューカッスルの海沿いの町タインマスの鄙びた景色が郷愁を誘う。2012年7月12日追加。 ノーサンバーランド
(タインマス)
イングランド東部
トムは真夜中の庭で

岩波世界児童文学集

フィリパ・ピアス 弟がはしかにかかり、叔母さんの家にやられたトムは、アパートの裏庭が夜毎見事な庭園に変貌していることを知る。彼は過去の時代に来ているらしい。そこで出会った少女ハティと決して「良い子」ではないトムとの時を超えた不思議な物語。単なる幻想物語に終わらぬ読後感も良い。イギリスでは風変りなイーストアングリアの景観も印象的。イーリー大聖堂の八角塔なども描かれている。01年12月3日追加。 ノーフォーク
アーマデイル

臨川書店

ウィルキー・コリンズ傑作選6、7、8

ウィルキー・コリンズ 共にアラン・アーマデイルという名を持ち、不思議な運命のめぐり合わせで厚い友情に結ばれたふたりの若者の過去には、かつて彼らの父親を襲った忌まわしい宿命がひそんでいた。後半では魅惑的な悪女グウィルト嬢が事実上の主役となり、読者の関心と同情を引きつけずにはおかない。ドイツ、西インド諸島、イタリアと国際的な話であるが、主人公のマナーハウスがあり、話の主要な部分が展開するイーストアングリアに分類すべきだろう。02年8月30日追加。 ノーフォーク
リヴァトン館
ケイト・モートン
栗原百代訳
貴族の館に奉公した老婦人が、死を目前にして回想するかつての日々。ふたつの大戦に挟まれ、最後の輝きを放つ貴族たちの社会。彼らに奉仕することに生きがいを見出す召使たちの自負。共に今は亡き古き時代が感慨深い。彼女が仕え、華やかで短い一生を終えた美しい姉妹、そしてパーティの夜に起きた惨劇の真相が初めて明かされる。取り返しがつかぬ悲劇を引き起こしたのは、彼女の真心から出た行為だった。そのむごい事実に彼女はいつ気付いたのだろう。2011年11月。 サフォーク
(だと思う)
ロンドン
黒衣の女
早川書房
スーザン・ヒル
河野一郎訳
亡くなった老婦人の遺産管理の為に沼地の館を訪れた若き弁護士が体験する過去の悲劇。黒衣の女の亡霊の恐ろしさは、筆舌に尽くしがたいものがある。何度も読み返すお気に入りの作品だ。2012年2月。 ノーフォークまたはサフォーク
スコットランド
幻の住む館

ベネッセ・コーポレーション

アイリーン・ダンロップ 屋敷町の古い邸宅で起こる不思議な出来事。階級間の対立や葛藤など、子供向けの物語にしてはテーマが重い。 グラスゴー
はるかスコットランドの丘を越えて ローズマリー・サトクリフ 異郷の地で家族と現在の生活を営む老人の回想の形をとって、少年時代に拘りを持った「ボニー・ダンディ」の反乱事件を描く。「血まみれクレイヴァーハウス」「美貌のダンディ」、相異なる二つの通り名を持つダンディ子爵、クレイヴァーハウスのジョン・グレアム。その姿を見詰める少年兵士の視線は少々アブナイかも。原題はずばりBonnie Dundee。日本の読者には馴染みが薄いスコットランドの歴史の一端に触れることができる。(2003年11月28日、2012年1月2日修正) スコットランド東部から中部、スペイン、オランダ
世界探偵小説全集13
推定相続人

国書刊行会

E・C・R・ロラック

桐藤ゆき子

1935年発表の推理小説。名家出の遊び人ユースタスは、上位相続人であった父子の事故死をきっかけに、他の相続人を排除することを思いつく。倒叙もの。発端のコーンウォール、ロンドン、スコットランド、ノーサンバーランドと話は全国に及ぶが、問題の殺人がスコットランドで起こるのでここに分類した。一般の日本の読者には地図が必要かも。(2001年12月19日追加) 西海岸
遠い日の歌がきこえる

冨山房

ローズマリー・ハリス

越智道雄

孤島の古城で休暇を過ごす従兄妹たちのもとに都会育ちの少女が現れた。彼らの感情の行き違いが、魔女と呼ばれた先祖の女ルーシーの亡霊を呼び覚ます。荒涼とした風土と陰惨な歴史、あざらしプラシェットの愛らしさの組み合わせが不思議。1971年の作品だが、もう少し以前(大戦前頃)の時代設定のようにも思える。2002年8月19日追加 西海岸の孤島
エディンバラの光と影

さ・え・ら書房

ジョーン・リンガード

定松正

両親と兄と共に何不自由ない暮らしを送るエミリーが出会ったどこか自分に似た少女イブ。エミリーの平穏な日々が、家族の暮らしに影を落すことになる父の秘密との出会いだった。少女は、家族は試練を超えてひとつ成長していく。裕福な家庭とトレイラーハウスに住まう下層民。イギリスの現状がここにある。(2003年11月28日) エディンバラ
蒸気機関車と血染めの外套 アランナ・ナイト
法村里絵
エディンバラの警部補ファロもの3作目。義息子ヴィンスの上司の妻が謎の失踪、列車内で殺害されたものとみなされる。疑いは夫にかかるのだが。前2話同様にファロとヴィンスの奇妙な関係がユニーク。冬のエディンバラの雰囲気も良い。何となく後味が悪い話である。一番の難点はシリーズの表紙の絵柄の安っぽさ。この表紙にした責任者は絞首刑にした方が良い。(2014年1月21日読み終え) エディンバラ
時の旅人クレア

ソニーマガジンズ

ダイアナ・ガバルドン

加藤洋子

ハイランド地方を夫と共に訪れた女性が、1745年の乱直前の時代にタイムスリップ、そこで出あったハイランド戦士と運命の恋に落ちる。「メロドラマ」も「自立した女」も好きではない私としては、1冊を読み終えるのがつらかった。本国では大人気の大河恋愛小説らしいが、私は無人島に持っていくなら別の本を選ぶ。壮大な歴史を背景にしているのは間違いないので、我慢して読みつづけるか考慮中。(2005年9月30日) ハイランド地方
大鴉の啼く冬 アン・クリーヴス
玉木亨
一面の雪に閉ざされるシェトランド諸島の冬。パーティ帰りの少女が雪原で殺された。8年前の幼女失踪事件の犯人と疑われた孤独な老人が何かを知っているのだが。主人公のペレス警部はかつてのスペイン艦隊の末裔という変わり種。2011年12月再読。 シェトランド諸島
白夜に惑う夏 アン・クリーヴス
玉木亨
ペレス刑事もの2作目。身元不明の男の変死、島を出て行方知れずの兄に何が起こったのか。夏のシェトランドは冬とは違った顔を見せる。日が沈まぬ夏は冬にもまして人々を狂気に駆り立てる。波が抉りだした断崖など、夏ならではの荒々しい自然が魅力的だ。2011年12月。 シェトランド諸島
野兎を悼む春 アン・クリーヴス
玉木亨
同3作。野兎撃ちの流れ弾に当たったと思われた老婦人の死に、そして発掘調査中の学生の死。今回、里帰り中の警官サンディが目立つ。ペレスの評価が低かったサンディの成長物語でもある。春のシェトランドは何とも魅惑的。ただ、被害者の個性に満ちた女性を「老女」と呼び捨てる翻訳者の無神経さが減点。2012年1月。 シェトランド諸島
(ウォルセイ島)

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