6月の詩
2000年6月
罌粟(けし)ひらく、ほのかにひとつ、
また、ひとつ…
やはらかき麦生(むぎふ)のなかに、
軟風(なよかぜ)のゆらゆるそのに。
薄き日の暮るとしもなく、
月しろの顫(ふる)ふゆめぢを、
縺(もつ)れ入るピアノの吐息(といき)
ゆふぐれになぞも泣かるる。
さあれ、またほのに生(あ)れゆく
色あかきなやみのほめき。
やはらかき麦生(むぎふ)の靄(もや)に、
軟風(なよかぜ)のゆらゆる胸に、
罌粟(けし)ひらく、ほのかにひとつ、
また、ひとつ…
北原白秋 「ほのかにひとつ」
新潮文庫より
写真はイギリス、ナイマンズ・ガーデンに残る館の廃墟